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幹細胞治療における細胞投与数と安全性の問題、「培養へのこだわり」について

[2023.11.15]

「培養へのこだわり」について

こちらは患者さんに時々おられる、科学的、医学的理由がなく、とにかく「培養して細胞数を増やさないと」「増やしたほうがいい」という考えの危険性について解説していきます。

培養では1種類の細胞しか増やすことができない

実は現在の医学では、造血幹細胞、ES様幹細胞、Muse細胞など、非常に有益と考えられる細胞は培養できず、培養のプロセスでは破棄されてしまいます。そして、投与できる細胞の種類が多いため、総細胞数では培養しない方が多くの細胞を安全性を保ちながら実は投与できます。安全性は医学の経験上、歴史上、および投与件数の圧倒的多さから担保されています。ただし、投与方法と事前の処理が複雑なため、培養した一つの細胞のみを投与する方法より医学的に難易度は上がります。

安全性の面から考える適切な細胞投与数とは

当院でも行っているような造血幹細胞移植(骨髄、もしくは臍帯血、末梢血由来)は50年以上の歴史を持ち安全性および効果や投与濃度が確立された治療ですが、それとは異なる、培養した特定の1種類(間葉系)の幹細胞投与の治療というものは新しい治療になります。それでも、もちろん単一の細胞を投与する場合も実際は濃度に注意する必要があります。今までの知見としてどれくらいの細胞を投与して安全なのかは、多くの臨床研究で明らかになっています。そして現在のところ400万個/kgまではかなり安全に投与できるのではないかという議論がなされています。(Feasibility, Safety, and Tolerance of Mesenchymal Stem Cell Therapy for Obstructive Chronic Lung Allograft Dysfunction 11 January 2018 https://doi.org/10.1002/sctm.17-0198 )(※これはあくまで培養した間葉系幹細胞の話しなので、培養されていない造血幹細胞移植などで用いられる総細胞とは全く異なります。実際に培養していない、例えばがんの治療として確立されている造血幹細胞移植などではもっと多くの総細胞数を投与できます)

逆にこれ以上の高濃度の投与は症例がなさすぎて、行うとなると安全性の点からあくまで現段階では治療ではなく、「実験」になってしまうと言わざるをえません。

すなわち安全性の面から体重によって投与量の限度が出てくるのですが、これを理解している民間のクリニックはほとんどないのが(知らないか勉強していない)現状です。ここは日本の民間レベルの幹細胞治療の非常に大きな安全性の面での問題で、細かい細胞投与数は厳格な規制がされていないのが現状になり、いわゆる「培養病」の患者さんを集客するためにとにかく多い細胞数を投与できると歌って、安全性を無視した治療を提供しているところがかなりあります

実際にテムセルと言われる厚生労働省が認可している、GVHD(拒絶反応)を抑える医薬品では体重あたりの細胞投与量が安全性の観点から厳格に決められています(テムセルの投与では200万個/kgの投与となります)。テムセル添付文書

この基準は成人であればほとんど問題はありません。例えば、60kgの人であれば2億4千万個までは問題なく(ある程度安全に)投与できるということになります。培養をしてもなかなか2億は超えません。しかし、例えばこれが非常に瘦せ型の成人とか、もしくはそもそも小児となると全く話しは変わってきます。

例えば10kgの小児の子供ではテムセル基準で言えば2000万個が投与量の限界になります。となるとそもそも培養してしまうと5000万個は超えてきますので、細胞数が多すぎて逆に安全域から逸脱します。もちろん将来的に、もう少し多い量を投与できるということがわかる可能性もありますが、現段階であまりに安全域を逸脱した投与は倫理的、安全面で問題があると言わざるをえません。

投与細胞数は多ければ多いだけいいのか

そもそもとして、そんなに多くの細胞数を投与する必要があるのか。答えはYesでもNoでもあります。

現状投与細胞数に関して分かっていることは、

・一定以下の濃度を下回ると全く効果が出ないこと

・それを超えると一定のラインまでは効果と細胞数が比例して細胞数によって効果が増える。が、安全性は毀損されない(当院では安全域まで十分な余裕を持って投与数を設定しているため、増やすことによるデメリットはないラインで投与量を設定しています。)

・安全ライン以上の過剰な細胞数の投与は安全面から推奨されない、ということになります。そして一部の病気では安全域を逸脱するとそもそも治療効果が少なくなることもわかっています

となると皆様お分かりの通り、最低の基準となる濃度、増やしていい濃度、安全が担保されなくなる濃度というものを「病気、疾患それぞれに対して」理解している必要があります。なぜならば、病気や状態ごとにそれらの基準となる投与濃度が違うからです。そうしなければ、効果がそもそも期待できない低濃度で治療するとか、濃度が高すぎて安全性の面でかなり危険な治療をすることになります。濃度が高すぎる場合にどのような危険があるかに関しては、また別の機会に説明いたします。

ですので、ただ幹細胞投与をすればいいのではなく、あくまで「疾患にあった適切な濃度」で治療を行う必要が出てきます。「疾患にあった適切な濃度」というものは、医学的に設定されているもの(調べればわかる)ものもあれば、多くの件数を行ってきた病院のデータ、資産としてのみ存在しているものもあります。

当院では非常に多くの件数を「疾患にあった適切な濃度」で行ってきており、その部分では多くのデータがあり、そういう意味ではより適切な治療が提供できるものと考えています。

 

 

 

 

 

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