スポーツ分野での幹細胞治療
スポーツ選手のけがの治療といえば、どのようなものが思い浮かびますか。靭帯を怪我した場合や骨折した場合は、安静にしてギプスで固定、場合によっては手術を行うなどの方法があります。スポーツ選手は肉体を極限に駆使するため、筋肉や靭帯や関節などを痛める機会は一般的な人よりかなり多くなると思います。また、度重なる練習のために、筋肉などの疲労を早急に回復させることが必要になるでしょう。ここで、近年注目されているのは、自分の細胞由来の幹細胞治療です。幹細胞を、けがや酷使された部位に注入することで、失われた組織の再生を促すという治療法を指します。
目次
- 幹細胞による靭帯損傷の治療
- 幹細胞による筋肉損傷の治療
- 幹細胞による腱損傷の治療
- 幹細胞による骨損傷の治療
- 幹細胞による疲労回復の治療
- 幹細胞による慢性疼痛の治療
- 幹細胞による筋肉増強、パワーアップ、アスリートのパフォーマンスアップの効果
幹細胞による靭帯損傷の治療
ここで、前十字靭帯という靭帯のけがに対し、自分の骨髄から取った骨髄由来幹細胞を注入し、成長因子を促し、けがを治す幹細胞治療についてまとめた論文を紹介いたします。
前十字靭帯のけがは、スポーツにおいて最も多いけがの一つで、アメフトやバスケの選手によく見られます。今回、けがをしたアスリート自身から取った骨髄幹細胞をけがした部位に注入することにより、失った組織を再生し修復する治療を行いました。患者は注入後4か月でジョギングを出来るようになり、術後6か月でドリブルやバスケットボールのシュートなどのスポーツ訓練が出来るようになりました。
幹細胞による筋肉損傷の治療
筋肉のけがは一般的で、スポーツによるけがの35~55%を占めます。
筋肉の幹細胞治療は、患者の生体検査から、健康な筋肉幹細胞を取り出し、患者に移植します。これにより健康な細胞が増える事で、長期的に筋肉の再生を可能にすることが出来るのです。
ここで、損傷した筋肉に筋肉由来幹細胞(MDSC)を注入し、それにより損傷した筋肉が回復出来る事を示した研究を紹介いたします。この研究によると、筋肉由来幹細胞(MDSC)の注射により、筋肉損傷後にも筋肉の収縮の強さを改善することを示しました。前脛骨筋(前脚)欠損のラットに対し、筋肉由来幹細胞(MDSC)を腹腔内注射しました。6つの健康な肢を有する別の3匹のラットを、対照の肢として機械的測定に使用しました。
- https://newspicks.com/news/753210/body/
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6926314/
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2630112/
- https://research.cornell.edu/news-features/stem-cells-and-muscle-repair
con:コントロールグループ
HS:筋肉由来幹細胞(MDSC)注入グループ
3つのグラフはいずれも筋原線維(筋肉の線維)のマーカーを示しています。コントロールグループと比較すると、筋肉由来幹細胞(MDSC)を注入したグループは筋肉が再生していることが分かります。
左:コントロールグループ 右:筋肉由来幹細胞(MDSC)注入グループ
欠損領域における線維性コラーゲン沈着のマッソン染色で染色した組織標本です。ピンク色の領域が筋肉を示しており、コントロールグループと比べて幹細胞注入群は筋肉が再生していることが分かります。
以上の結果から、筋肉由来幹細胞(MDSC)の注入により、損傷した筋肉を再生させることが可能な事を証明しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2630112/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7035785/
https://research.cornell.edu/news-features/stem-cells-and-muscle-repair
幹細胞による腱損傷の治療
アスリートはなるべく早く仕事に戻る必要があります。そのためアスリートにとって手術なしで回復の出来る幹細胞治療は画期的な治療です。腱のけがは主にアキレス腱のけがが多くあります。今回、アキレス腱の断裂を手術なしで回復できること証明するために、脂肪由来幹細胞の注入により治療した論文を紹介します。腱のけがは非常によくあるものの治りが非常に遅いものです。この論文では、ラットに対し腱を切断し、脂肪由来幹細胞を注入して、組織の再生度合を調べました。
脂肪由来間葉系幹細胞の脂肪生成(A)、骨形成(B)、骨形成(C)の様子
軟骨細胞、骨芽細胞、および脂肪細胞でそれぞれ脂肪由来幹細胞の分化が示されました。
上記の結果のように、幹細胞の注入により、失われた組織が再生されていることが分かります。
幹細胞による骨損傷の治療
骨の再生は、幹細胞治療で可能になります。骨折した時、骨髄由来幹細胞を注入することで、局所的に、また全身的に炎症反応を少なくすることにつながります。注入された幹細胞は、軟骨と骨を作るのに役立ちます。研究によると、骨折7日目に骨髄由来幹細胞を注入することで、骨の治癒が改善されたことが証明されています。
幹細胞による疲労回復の治療
幹細胞の注入は、スポーツ後の疲労回復にも効果があると言われています。ここで、造血幹細胞を身体運動後に注入し、その疲労回復の改善度合いを調べた論文を紹介します。対象者は平均38日間、身体運動の追跡調査を行い、幹細胞注入でどれほど疲労回復に変化があるか調べました。結果、幹細胞を注入した対象者は、非常に少ない疲労を報告し、この結果から幹細胞注入で疲労回復に効果があることが証明されました。
幹細胞による慢性疼痛の治療
アスリートは怪我をする機会も多く、慢性的に痛みが続くケースも少なくありません。そのような慢性的な痛みに対し、自己由来の幹細胞を注入することが痛みの緩和になります。ここで、椎間板に慢性的に痛みを持つ患者さんに自己由来の骨髄幹細胞を注入して痛みを改善した研究を紹介します。
研究は、椎間板に慢性的な痛みを抱える患者10人に骨髄幹細胞を投与したものです。10人の患者全員が少なくとも6か月続く保存的治療(身体的および医学的)に反応しませんでした。
間葉系幹細胞(MSC)治療後の経時的な痛みの時間的変化
(A)経時的な腰痛を示すグラフ
投与後、3ヶ月で痛みが大きく軽減されたのが確認できます。
以上の結果から、慢性的な痛みには幹細胞治療が有用である事が示されました。
幹細胞による筋肉増強、パワーアップ、アスリートのパフォーマンスアップの効果
アスリートにおいては、筋肉の損傷は避けて通れない道になることかと思います。そのような筋肉の損傷に対し、画期的な治療法が確立しています。それが、骨髄幹細胞の注入による治療です。骨髄幹細胞がどの様にして筋肉の損傷を治すのか、以下の論文を紹介いたします。
損傷前脛骨筋(TAM)という筋肉を損傷したマウスに骨髄幹細胞を注射し、その筋肉損傷部位の再生能力を検証しました。
B筋肉損傷後
D筋肉損傷後、骨髄幹細胞を注入したもの
Bの図では、筋肉が損傷してほぼ全体が破壊されている様子を示しています。BとDは骨髄幹細胞の投与有無で比較が可能になっており、骨髄幹細胞注入後は筋肉損傷部位(ピンクの筋肉が損傷し白く抜けている)の部分に、Dの図では細胞が再生し空洞(損傷部位)がなくなっている事がわかりました。
以上の結果から、骨髄幹細胞の注入で損傷した筋肉は再生することが示されました。
ここで、近年注目されている筋肉損傷に対する筋幹細胞による治療についてご紹介します。この治療法は未だ確立されておらず、当院では扱っておりませんが、これから先実現可能な治療法として非常に注目されています。
成体の骨格筋は安定な組織で、日常的な細胞の入れ替わりは起こりません。しかし、損傷などを受けると目覚ましい再生する能力を発揮します。骨格筋の再生能力を担うのは筋サテライト細胞という筋幹細胞です。筋サテライト細胞は通常眠った状態(休止期)で存在していますが、筋がダメージを受けて損傷すると速やかに、目覚め(活性化)、増殖を繰り返し、筋分化することで、損傷した筋線維を再生します。
筋肉が損傷することで、漏出する成分が筋サテライト細胞を活性化させます。この漏出成分を「損傷筋線維由来因子(DMDFs:Damaged myofiber-derived factors)」と言います。
マウス筋組織から単一の筋線維を単離し、培養を行いました。共培養あり群は、共培養なし群に比べて、活性化しているサテライト細胞の割合は増えることから、損傷筋線維由来因子(DMDFs)によりサテライト細胞は活性化させることが分かりました。
損傷した筋肉の線維から漏出する成分は筋サテライト細胞を活性化させ、損傷した筋肉の線維から漏出する成分を除去すると再び休止状態に戻ることから、損傷筋線維から漏出する成分は活性化のスイッチのような役割があります。以上の結果から、DMDFsは、休止期のサテライト細胞を活性化させ、筋損傷後、迅速な筋再生を誘導する機能を持つことが示されました。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.2425101426
当院では、アスリートのけがや疲労回復に対し、自分の細胞由来の幹細胞治療を注入するスポーツ医療に対しての幹細胞治療を提供しています。東京大学卒業の医師たちが、一流のアスリートへの最適な環境作りをサポートいたします。先進的な病院で十分な経験を積んだ医師達によりあなただけの治療を提供いたします。スポーツ分野における幹細胞治療は、ぜひ当院にお任せください。
実際に治療した有名人のまとめ
プロ・テニスのラファエル・ナダル選手(スペイン)は、持病の腰痛を治すために、脊椎の骨と骨の間に自己由来の幹細胞を注入し、軟骨の回復を促したとされています。プロ野球の大谷翔平選手は、右ひじの靭帯のけがを治すために、PRPと幹細胞治療を受けました。手術なしで、故障者リストに載ってから、わずか1か月足らずで復帰を果たしています。
http://news.tennis365.net/news/today/201411/102510.html?s=relate
プロ野球の大谷翔平選手は、右ひじの靭帯のけがを治すために、PRPと幹細胞治療を受けました。手術なしで、故障者リストに載ってから、わずか1か月足らずで復帰を果たしています。
アメリカンフットボール選手のジャービス・グリーンは、膝のけがに対して、自身の骨髄由来幹細胞を注入し、治療しました。
プロゴルファーのタイガーウッズは、2010年、ひざのけがに対し、関節の再生治療として自身の幹細胞を注入しました。
サッカーのレアルマドリードのクリスティアーノ・ロナルド選手は、大腿のハムストリングスという筋肉のけがに対し、自身の骨髄由来幹細胞を注入しました。
レッドソックスで活躍するプロ野球選手の松坂大輔は、長年にわたり痛む関節に、自身のPRPを注入する治療を行いました。
元プロゴルファーのジャック・ニクラスは、2016年、長年にわたる関節の痛みと炎症に対し、腹部の脂肪から取った幹細胞治療を行いました。
元プロ野球選手のジョシュ・ハミルトンは、長年、ひざの腫れに悩まされており、幹細胞を注入し、同時に血小板を注射しました。
元プロ野球選手の斎藤隆は、ひざのけがに対し、自身のキャリアを犠牲にする手術をするリスクを負いたくないことから、自身の幹細胞を用いた再生治療を行いました。
競泳選手のダラ・トーレスは、日々のトレーニングにより悪化したひざのけがを、膝蓋骨の軟骨を再生させるために、自己由来の軟骨細胞移植を受けました。
プロ野球選手のバートロ・コローンは、2005年、腱の断裂とひじのけがに対し自身の骨髄由来幹細胞を注入しました。彼はスポーツ選手で幹細胞治療を受けた最も初めの人のうちの一人です。
プロ野球選手のアンドリューヒーニーは、2016年前腕の尺骨の靭帯が断裂し、幹細胞治療を受けました。
イメージ画像
靭帯断裂
http://www.meadowsvetclinic.com/cruciate-ligament-rupture.html
http://www.meadowsvetclinic.com/cruciate-ligament-rupture.html
腱の断裂
http://www.southfloridasportsmedicine.com/achilles-rupture.html
骨折