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女性の不妊症に対する幹細胞治療

不妊症の定義と分類

不妊症は、少なくとも12か月間妊娠(流産を含む)を達成できないことと定義されています。2002年には、米国では既婚女性の7.4%、つまり約210万人の女性が不妊症でした。
不妊の原因は、有病率が変動する3つの主要なカテゴリーに分類できます

  • 女性の原因(33〜41%)
  • 男性の原因(25〜39%)
  • および混合原因(9〜39%)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/

不妊症の原因

女性の不妊を引き起こす要因はたくさんありますが、その中でも生殖器系に関連する病気が主な原因です。女性の不妊症の病因には、排卵障害(多嚢胞性卵巣症候群、視床下部機能不全、および原発性卵巣機能不全)、尿細管不妊症、子宮内膜症、および子宮と子宮頸部の原因(頸部狭窄、ポリープ、および腫瘍)が含まれます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/

一般的な不妊症の治療法とそのリスク

ホルモン補充療法は、不妊のいくつかのタイプには有効であるが、そのような療法は乳がんリスク増大します。排卵誘発、過剰排卵、または生殖補助医療は、妊娠率を増加させますが、多胎妊娠のリスクの増加に関連するさまざまな要因を考慮する必要があります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/

幹細胞による不妊治療のメカニズム

幹細胞には以下の2つの現象により、効果があります。

ホーミング現象

修復が必要な組織からのSOSにより、幹細胞が救助隊として働くことです。
具体的には、損傷部位から放出されるケモカイン等のシグナルに反応して、間葉系幹細胞が損傷部位に集積します。

パラクライン効果

細胞からの分泌物が直接拡散することで、近隣の細胞に作用することです。
例:免疫の制御、血管新生、抗炎症作用、抗酸化作用、抗アポトーシス作用、組織修復作用

例えば、不妊の原因が卵巣機能不全の場合、幹細胞は傷ついた卵巣に直接移動し、そこで働き、卵巣の回復を促進します。幹細胞は、子宮内膜に投与されることで、損傷した子宮内膜を再生し、パラクライン効果により生殖能力を回復させます。また、幹細胞は様々な組織になることが出来る多能性細胞であるため、投与された部位で、上皮や間質、内皮細胞自身になることが可能です。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/


卵巣機能不全による不妊症の幹細胞治療

女性の不妊症は、卵巣機能不全や子宮内膜症が原因で起こる可能性があります。女性の不妊を引き起こす要因はたくさんありますが、その中でも生殖器系に関連する病気が主な原因です。近年、女性の不妊症を治療するために、幹細胞治療が注目されています。

卵巣機能不全とは、40歳未満の女性で、卵巣の機能が落ちてエストロゲン, プロゲステロン,および テストステロンなどのホルモン産生が低下することで、排卵が停止したり間欠的になる、不妊の原因の一つです。卵巣機能不全は、早発卵巣不全(40歳未満で卵巣機能が低下して無月経となった状態)までは至っていないものの卵巣機能が衰えている状態のことです。卵巣機能不全になると、妊娠自体が難しい状態となります。


聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センター
https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/reproduction/feature/outpatient/outpatient01.html

日本内分泌学会
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=76

MSDマニュアル
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/18-%E5%A9%A6%E4%BA%BA%E7%A7%91%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%94%A3%E7%A7%91/%E6%9C%88%E7%B5%8C%E7%95%B0%E5%B8%B8/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E5%8D%B5%E5%B7%A3%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8

しかし、この様な卵巣機能不全の症状にも、骨髄幹細胞を投与する事で、卵巣の構造と機能が回復する事が分かりました。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/

ここで、卵巣機能不全を患ったウサギに骨髄幹細胞を静脈内注射し、機能の回復を観察した研究を紹介いたします。卵巣機能不全のウサギを二つのグループに分け、片方には幹細胞を投与し、もう片方には投与しませんでした。投与後、直後、2週間後、4週間後、6週間後のホルモンレベルを測定しました。

まず、妊娠におけるホルモンについて説明いたします。女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)があります。これらは排卵や生理など、一定の周期で卵巣から放出されています。下記文中で紹介されるエストラジオールはエストロゲン(卵胞ホルモン)の一種です。

エストロゲン(卵胞ホルモン)は子宮内膜を増殖させたり、精子を子宮内に入りやすいよう子宮頸管の粘液を増やします。卵胞発育と子宮内膜肥厚が十分になるころ卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌がピークに達し排卵が起こり、卵胞から卵子が放出されます。排卵後の卵胞は黄体となり、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌します。プロゲステロン(黄体ホルモン)はエストロゲンによって増殖した子宮内膜を柔らかくして受精卵が着床しやすい、つまりより妊娠しやすい状態に整え、妊娠を継続させる働きをします。受精卵が着床しないまま経過すると、子宮内膜が剥がれて出血とともに排出されることを月経といいます。

女性ホルモンの流れは以下の通りです。まず、脳にある視床下部という場所から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌され、脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。さらにこれらのホルモンが卵巣内の卵胞に働きかけ、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌し子宮内膜に働きかけます。女性ホルモンは量が多くなると減るように、減ってくると増やすように脳でコントロールされています。(フィードバック)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539692/figure/article-24535.image.f1/


この説明を元に、以下の結果をご覧ください。

(1)研究期間中の研究グループにおける卵胞刺激ホルモンレベル(mIU / mL)

MSC:間葉系幹細胞
幹細胞投与群は、卵胞刺激ホルモン(卵胞ホルモンを分泌するために放出されるホルモン)が大きく低下していることが分かります。

(2)研究期間中の研究グループにおけるエストラジオールホルモンレベル(ng / L)

対して、幹細胞投与群は、エストラジオール(=性ホルモン、卵胞ホルモン)が大きく上昇していることが分かります。

以上の結果から、幹細胞の投与により、卵胞ホルモンが正常に分泌されるようになることが分かりました。つまり、幹細胞により卵巣機能不全が改善されることが証明されました。

以下、卵胞での幹細胞投与による組織学的改善です。

E:卵巣機能不全の原始卵胞および一次卵胞(陰性)
F:幹細胞治療後の卵胞(陽性)
陽性の卵胞とは、PCNA免疫染色において陽性であるものです。PCNA免疫染色とは、増殖細胞核抗原を染色するもので、増殖している活性化させた状態にあるものを陽性に染色します。つまり、陽性であるという事は、その機能が活性化状態にあるということです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23260087/

ここで、骨髄幹細胞を取る際の方法として、骨髄穿刺と脊髄穿刺を混同している患者さんが多く見受けられます。

骨髄穿刺と脊髄穿刺の違いについて、こちらをご覧ください

骨髄由来細胞による子宮内膜細胞への分化

脱落膜は、妊娠の終結に伴い胎盤とともに剥脱する、子宮内膜の一部です。妊娠の成立には、この脱落膜化が必要なプロセスとなります。脱落膜化とは、子宮内膜が増殖・肥厚して受精卵の着床を許容する状態に変化することです。先程のホルモンの説明の通り、受精卵の着床がない場合、プロゲステロン(黄体ホルモン)が低下し、脱落膜化した子宮内膜が適時に破壊され、月経につながります。脱落膜化は、子宮が受精卵を受け入れるための準備段階であり、妊娠の成立後は、長期に渡ってその状態が続きます。着床により、脱落膜は成長し、妊娠中ずっと維持されます。また、脱落膜化の障害により、不妊につながります。脱落膜化の不全は、不妊症・習慣性流産・子宮内膜症などに関与すると考えられています。

近年、骨髄幹細胞は、妊娠中に脱落膜細胞に分化することが、最新の研究により明らかになりました。つまり、不妊の治療に骨髄幹細胞を投与する事で、妊娠中の脱落膜へと変化し、着床を経て、不妊を根本的に解消する事が可能となるのです。

ここで、エール大学により発表された、女性の骨髄が妊娠を開始および維持する能力を決定する可能性があるという研究を紹介いたします。この研究では、欠陥のある子宮内膜としてマウスに現れるHoxa11遺伝子欠損のある2つのマウスモデルにおいて、研究者らは、健康なドナーからの骨髄移植が子宮内膜の十分な脱落膜化を促進することによって生殖能力を改善できることを発見しました。

Hoxa11:骨髄幹細胞が発現する子宮内膜間質欠損に関わる遺伝子
KO:Hoxa11遺伝子を発現しないようにしたマウス
WT:野生型マウス

Hoxa11を発現する骨髄幹細胞が子宮着床部位での遺伝子発現に影響を及ぼし、脱落膜化に深刻な影響をもたらす可能性があることを示唆しています。骨髄由来間葉系幹細胞の一部は子宮に移動し、着床と妊娠維持のプロセスに不可欠な細胞である脱落膜細胞になるのです。つまり、骨髄幹細胞によって、脱落膜化が促進されることが分かります。

国立研究開発法人国立成育医療研究センター
http://www.ncchd.go.jp/press/2018/endometrial.html

https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000421

https://news.yale.edu/2019/09/12/bone-marrow-may-be-missing-piece-fertility-puzzle

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6806537/

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6925937/

子宮内膜症における不妊症に対する幹細胞治療

子宮内膜症とは、子宮内膜と同じような組織が子宮の外に広がった病気で、悪化するとひどい生理痛や、慢性の下腹部痛、性交時の 痛みや不正性器出血、生理の時期の排尿痛や生理前の便秘、生理後の下痢などの症状が現れます。子宮内膜症があると、子宮内膜からの出血が子宮以外の場所、たとえば卵巣や腸の腹膜でおこり、卵巣、卵管や腸が癒着したり、卵巣内にチョコレートのう胞と呼ばれる卵巣のう腫ができます。

不妊と子宮内膜症には以下のような関係が見られます

  • 子宮内膜症と不妊との関連は明らかであるが,子宮内膜症が妊娠成立を阻害するメカニズムに関しては十分解明されていない
  • 子宮内膜症患者の30~50%が不妊
  • 不妊症患者の25~50%に子宮内膜症が認められる
  • 不妊患者の子宮内膜症罹患率は正常婦人の6~8 倍高い
  • 正常婦人の月経周期ごとの妊孕率は15~20 %であるのに対し,子宮内膜症患者は2~10%に低下する

アッシャーマン症候群(AS)は、子宮内膜症の繰り返しによる子宮内膜の破壊によって引き起こされる婦人科疾患です。その結果、多くの機能的な子宮内膜が失われ、子宮腔が子宮内癒着によって消失し、無月経、過少月経、不妊症、不育症、および/または前置胎盤や癒着胎盤を含む異常な胎盤形成につながります。また、子宮内膜萎縮(EA)は、子宮内膜が薄すぎて5 mmを超えて成長しない、もう1つのまれな状態です。両者は、機能的な子宮内膜が欠如しているという共通点があります。このような子宮内膜が欠如したものに対し、幹細胞を投与する事で子宮内膜が再生することが分かっています。

以下、子宮内膜に疾患を抱える患者16人に対し、骨髄幹細胞を動脈内カテーテル法によって投与した症例を紹介いたします。難治性ASの患者はうち11人でした。

(A)AS(B)EA患者の術前および術後の子宮鏡画像
First look:幹細胞治療前
Second look:幹細胞治療3ヶ月後
Third look:幹細胞治療6ヶ月後

画像から分かるように、幹細胞投与前の子宮内膜における炎症は、幹細胞投与後に寛解しているのが分かりました。以上のことから、幹細胞は子宮内膜を再生する事が示されました。

すなわち、幹細胞治療は子宮内膜を再生させ、妊娠により適した状態にするということです。

日本医科大学附属病院
https://www.nms.ac.jp/hosp/section/female/guide/cure004.html

日本産婦人科学会
https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%884%EF%BC%89%E5%AD%90%E5%AE%AE%E5%86%85%E8%86%9C%E7%97%87%E6%80%A7%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C/

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