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骨髄血による帯状疱疹後神経痛の改善の世界初の英語論文(日本語訳)

[2024.02.25]

去年4月にお知らせした骨髄血による帯状疱疹後神経痛の改善の世界初の英語論文 について(当院院長 筆者 論文アクセプト済み)、日本語訳を作成しましたので、以下掲載します。

 

題名

「濃縮した骨髄穿刺液の投与により帯状疱疹後神経痛が完治した症例の報告」

 

抄録 

帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia、PHN)は、帯状疱疹(Herpes zoster, HZ)の中でも最も頻度が高く、治療が難しい合併症である。その症状には、異痛症や痛覚過敏、灼熱感、損傷した神経の過剰興奮または水痘帯状疱疹ウイルスが媒介する炎症組織損傷に起因する電気ショックのような感覚が含まれる。HZ 関連のPHNの発生率は5%~30%であり、一部の患者では痛みが耐えられず不眠症やうつ病の原因になる。また多くの場合、鎮痛剤が効きにくく、より根治的な治療法が必要になる。今回、鎮痛剤やブロック注射、漢方薬などの従来の治療では痛みが治らず、骨髄間葉系幹細胞を含む濃縮した骨髄穿刺液(Bone marrow aspirate concentrate、BMAC)の注射により痛みが改善したPHN患者の症例を紹介する。BMACはすでに関節痛に使用されているが、PHN治療への使用に関しては最初の報告となる。

 

背景 

帯状疱疹後神経痛 (Postherpetic neuralgia、PHN) は、帯状疱疹 (Herpes zoster, HZ)の出現後に発症する疼痛症候群である。その症状には、異痛症、痛覚過敏、灼熱感、神経の過剰興奮による電気ショックのような痛みを含む[1]。PHNは HZ の最も頻度が高い合併症であり、5〜30%のHZの患者が PHN を患う。さらに悪いことに、症状は何年も続き、生活の質を低下させる[2]。そして一部の患者では、痛みが耐えられず不眠症やうつ病の原因となる[3]。またPHNは治療が難しく、汎用される治療ガイドラインはない[4]。さらに、この痛みは薬剤耐性があり、鎮痛剤の長期使用はめまいや依存性などの副作用を引き起こす[5-7]。ボトックスや神経遮断、経皮的神経刺激など薬剤以外のいくつかの治療選択肢が存在するが、患者の半数以上はこれらの治療は効かない[3]。以上の点から、PHNに対するより根治的な治療法が必要である。

今回、私は、従来の治療が効かなかったPHNの患者が自家骨髄穿刺液を投与することにより完全に治癒した症例を紹介する。骨髄穿刺液中に含まれる間葉系幹細胞は、神経栄養因子や抗炎症性サイトカインを分泌することが知られており、それらは抗炎症作用、神経保護作用および組織再生作用を有する[8-10]。後ほど議論することであるが、今回のPHN患者でみられた治療効果は、そのような作用で説明できる可能性がある。そのような観点で考えた場合、骨髄の慢性炎症が関与するような疾患、つまりは貧血、骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患、糖尿病、さらには老化にまで、骨髄穿刺液の投与は有効ではないかと考えられる。

 

症例報告

本症例は65歳の女性患者であり、およそ20年前にHZに感染した。これまで抗ウイルス薬の強化療法を受けてきたが、左上半身に重度のPHNが残存した。プレガバリンや神経ブロック注射などいくつかの鎮痛剤が処方されたが、効果がみられなかった。また鍼治療や漢方薬などの代替治療も試したものの、効果がなかった。本患者は、痛み自体もそうだが、症状を落ち着かせるため患部を常に触っていたため生活しづらいと感じていた。治療の数週間前に、他の整形外科院にて病変周囲の骨検査が行われ、骨折やその他外科的な問題がないことが確認された。また、痛みはHZの発疹領域に沿った1つの領域のみで起きていたため、鑑別診断となる線維筋痛症の可能性は低いと考えられた。

患者からインフォームドコンセントを得た後、患者腸骨から 骨髄液を穿刺吸引し、濃縮骨髄穿刺液として、患者が痛みを感じる左上半身全体に皮下注射した。

投与から1 か月後の最初の追跡検査時に、患者は痛みが完全に消えたと述べた。痛みは、神経因性疼痛の 5 つの項目(表在性自発痛、深部自発痛、発作性疼痛、誘発痛、感覚異常/感覚異常)を点数化する神経障害性疼痛重症度評価ツールを用いて評価した。これら各項目は、0 ~ 10 ポイントの数値スケールで定量化されるが、治療前の各項目のスコアはそれぞれ 6 点、10 点、5 点、5 点、0 点だったのに対し、治療後 3 か月と 6 か月の両時点では、すべての項目で 0 点となった。さらに、痛みを感じないため肌に触れる必要がなくなり、生活しやすくなったと述べた。病変部に触れる回数は、治療前1 日平均 20 回以上から治療後 0 回となった。これらのことから、彼女は今回の治療に大変満足したと述べた。

 

考察

本事例から、濃縮した骨髄穿刺液の投与がPHNの画期的な治療法になることが考えられた。PHN の原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスの感染によって損傷を受けた神経が発する過剰興奮である[1]。本患者では骨髄濃縮液投与により、痛みが消えたことから、損傷した神経が何らかの作用により修復されたことが示唆された。骨髄濃縮液は関節痛に対してすでに使用されており、その有効性が報告されている[11]。新鮮な自家骨髄濃縮液は、間葉系幹細胞のような有益な細胞の他、細胞外マトリックス、成長因子、および様々なサイトカインを含んでおり、それらの相乗的作用によって、細胞の再生や増殖作用を発揮すると考えられる [12]。また特に間葉系幹細胞は、疼痛関連の治療に有効であることが知られている [13]。これは、間葉系幹細胞が、神経栄養因子や抗炎症性サイトカインを分泌し、それらは抗炎症作用、神経保護作用および組織再生作用を有するためである[8-10]。そもそも幹細胞は、GDNF(グリア由来神経栄養因子)やBDNF(脳由来神経栄養因子)、IGF-1(インスリン様成長因子1)、NGF(神経成長因子)、アンジオポエチン1 など、様々な神経栄養因子を分泌する[14]。この中でも例えばGDNF は神経損傷後の髄鞘形成や機能回復を促進する[15]とともに、幹細胞自体も、これらの神経栄養因子による脊髄損傷の機能改善を促進させる[16]。したがって、間葉系幹細胞を含む骨髄濃縮液のPNH に対する治療効果は、理論的には幹細胞に関するこれまでの知見と一致する。さらに、以前の研究において脂肪移植がPNHの治療に効果的であると報告されたが[17]、脂肪にも間葉系幹細胞が含まれていることが知られており、今回の治療効果と一致する。また骨髄穿刺は一般的に侵襲的であるとされるが、穿刺部位の痛みを除き、重大な副作用は報告されていない[18]。そして我々の経験上、脂肪採取よりも骨髄液穿刺の方が、副作用の懸念は少ないと思われる。

今回の結果は疼痛関連以外の他の病気にも応用できると考える。たとえば、濃縮した骨髄穿刺液に含まれる間葉系幹細胞が十分な量の抗炎症性因子を分泌し、慢性神経障害を緩和することができるのであれば、今回と同様の治療法により、貧血、骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患、糖尿病、さらには老化自体にも有益な作用を発揮する可能性がある。なぜなら、これらの疾患が骨髄の慢性炎症に関連しており[19]、間葉系幹細胞を投与することで骨髄中の幹細胞の数や活性が増加、亢進することが期待されるからである。したがって、少なくとも間葉系幹細胞はこれらの症状の治療標的となり得る。 実際、米国FDAに承認されている骨髄異形成症候群に対する治療薬であるデシタビンとも呼ばれる5-アザ-2'-デオキシシチジンは、間葉系幹細胞の老化を遅らせることが報告されている [20]。

この研究にはいくつか制限がある。第一に、今回の骨髄濃縮液の効果について間葉系幹細胞の作用を基にその治療機序を考察した。しかしながら、骨髄濃縮液には細胞成分に加えて、細胞外マトリックスや神経栄養因子、様々なサイトカインが含まれているため、そのような非細胞性の機能分子が治療効果に主要な役割を果たした可能性はある。第二に、今回の骨髄濃縮液投与によって治癒した身体部位では、神経というより皮膚を含めた組織が損傷し患者の症状をもたらしていた可能性もあり、そのような場合の骨髄濃縮液の効果は非神経組織の再生や細胞の増殖になると考えられる。

 

結論

濃縮骨髄穿刺液は PHN の治療選択肢になると考えられたが、その有効性については、ランダム化臨床試験により検証しなければならない。

濃縮骨髄穿刺液を調整、準備するには、遠心分離機以外には特別な機器を必要としないため、臨床医はその手法について簡単に習得、実践できる。またメリットとして、この手法は汚染の可能性がほとんどない「閉鎖」システムであり、細胞培養など必要なく外来診察で一日のうちに院内で行うことができる。他にも、濃縮骨髄穿刺液は幹細胞の供給源として様々な臨床医療に応用できる可能性があり、実際に心臓や神経、肺、胃腸、腎臓、泌尿生殖器、代謝、血液、筋骨格、眼、聴覚、皮膚などのさまざまな臓器の疾患や感染症に対する幹細胞の有効性が明らかになりつつある[21]。したがって、濃縮骨髄穿刺液を用いたPHN治療に関する今回の症例報告は、実際には濃縮骨髄穿刺液が様々な疾患に対して大きな治療可能性を持つことを意味すると考えられる。

 

参考文献

    1. Feller L, Khammissa RAG, Fourie J, Bouckaert M, Lemmer J. Postherpetic Neuralgia and Trigeminal Neuralgia. Pain Res Treat. 2017;2017:1681765.
    2. Drolet M, Brisson M, Schmader KE, Levin MJ, Johnson R, Oxman MN, Patrick D, Blanchette C, Mansi JA. The impact of herpes zoster and postherpetic neuralgia on health-related quality of life: a prospective study. CMAJ. 2010;182:1731–1736.
    3. Sacks GM. Unmet need in the treatment of postherpetic neuralgia. Am J Manag Care. 2013;19:S207–S213.
    4. Gan EY, Tian EA, Tey HL. Management of herpes zoster and post-herpetic neuralgia. Am J Clin Dermatol. 2013;14:77–85.
    5. Forbes HJ, Thomas SL, Smeeth L, Clayton T, Farmer R, Bhaskaran K, Langan SM. A systematic review and meta-analysis of risk factors for postherpetic neuralgia. Pain. 2016;157:30–54.
    6. Dosenovic S, Jelicic Kadic A, Miljanovic M, Biocic M, Boric K, Cavar M, Markovina N, Vucic K, Puljak L. Interventions for Neuropathic Pain: An Overview of Systematic Reviews. Anesth Analg. 2017;125:643–652.
    7. Bouhassira D, Attal N, Fermanian J, Alchaar H, Gautron M, Masquelier E, Rostaing S, Lanteri-Minet M, Collin E, Grisart J, Boureau F. Development and validation of the Neuropathic Pain Symptom Inventory. Pain. 2004;108:248–257.
    8. Cova L, Armentero MT, Zennaro E, Calzarossa C, Bossolasco P, Busca G, Lambertenghi Deliliers G, Polli E, Nappi G, Silani V, Blandini F. Multiple neurogenic and neurorescue effects of human mesenchymal stem cell after transplantation in an experimental model of Parkinson's disease. Brain Res. 2010;1311:12–27.
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    11. Dulic O, Rasovic P, Lalic I, Kecojevic V, Gavrilovic G, Abazovic D, Maric D, Miskulin M, Bumbasirevic M. Bone Marrow Aspirate Concentrate vs Platelet Rich Plasma or Hyaluronic Acid for the Treatment of Knee Osteoarthritis. Medicina (Kaunas) 2021;57
    12. Dragoo JL, Guzman RA. Evaluation of the Consistency and Composition of Commercially Available Bone Marrow Aspirate Concentrate Systems. Orthop J Sports Med. 2020;8:2325967119893634.
    13. Vickers ER, Karsten E, Flood J, Lilischkis R. A preliminary report on stem cell therapy for neuropathic pain in humans. J Pain Res. 2014;7:255–263.
    14. Zhang R, Rosen JM. The role of undifferentiated adipose-derived stem cells in peripheral nerve repair. Neural Regen Res. 2018;13:757–763.
    15. Shi JY, Liu GS, Liu LF, Kuo SM, Ton CH, Wen ZH, Tee R, Chen CH, Huang HT, Chen CL, Chao D, Tai MH. Glial cell line-derived neurotrophic factor gene transfer exerts protective effect on axons in sciatic nerve following constriction-induced peripheral nerve injury. Hum Gene Ther. 2011;22:721–731.
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    18. Eder C, Schmidt-Bleek K, Geissler S, Sass FA, Maleitzke T, Pumberger M, Perka C, Duda GN, Winkler T. Mesenchymal stromal cell and bone marrow concentrate therapies for musculoskeletal indications: a concise review of current literature. Mol Biol Rep. 2020;47:4789–4814.
    19. Solimando AG, Melaccio A, Vacca A, Ria R. The bone marrow niche landscape: a journey through aging, extrinsic and intrinsic stressors in the haemopoietic milieu. J Cancer Metastatis Treat. 2022;8
    20. Jung YD, Park SK, Kang D, Hwang S, Kang MH, Hong SW, Moon JH, Shin JS, Jin DH, You D, Lee JY, Park YY, Hwang JJ, Kim CS, Suh N. Epigenetic regulation of miR-29a/miR-30c/DNMT3A axis controls SOD2 and mitochondrial oxidative stress in human mesenchymal stem cells. Redox Biol. 2020;37:101716.
    21. Ebrahimi A, Ahmadi H, Pourfraidon Ghasrodashti Z, Tanide N, Shahriarirad R, Erfani A, Ranjbar K, Ashkani-Esfahani S. Therapeutic effects of stem cells in different body systems, a novel method that is yet to gain trust: A comprehensive review. Bosn J Basic Med Sci. 2021;21:672–701.

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引用元

Honda Pazili T. Treatment of postherpetic neuralgia by bone marrow aspirate injection: A case report. World J Clin Cases 2023; 11(15): 3619-3624 [PMID: 37383904 DOI: 10.12998/wjcc.v11.i15.3619]

 

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