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癌治療の副作用に対する幹細胞治療

がん細胞は細胞分裂を盛んに行っており、がん治療によって正常細胞より損傷を受けやすいことがわかっています。がん治療では、がん細胞を殺すため正常な細胞も傷つけてしまうことにより、多くの重度の副作用が出てしまう恐れがあります。

がん治療の副作用は色々なものがありますが、その中でも以下の症状に対して幹細胞治療を行うことで、その副作用を軽減させることができる可能性があります。

目次

1、脳のダメージに対する放射線治療

脳に放射線治療を受けた患者の約50%が、放射線による何らかの副反応を有することがあると言われています。放射線照射の酸化ストレスや炎症により、白質の放射線溶解、微小血管の破壊、神経細胞の破壊により、記憶障害、疲労感が起きることがあります。
 ここで、放射線治療による認知障害を改善する研究を紹介します。ヒト幹細胞を放射線照射したラットの脳に移植し、同じように移植はせず偽の手術を受けたマウスと比較して、認知能力の改善を示しました。

ラットの頭蓋に放射線照射し、2日後または2週間後または4週間後に、ヒト幹細胞を海馬に移植しました。そして放射線照射後、1ヶ月後または4ヶ月後に認知能力のテストを行い、海馬の機能が改善しているかを確認しました。幹細胞(IRR + hNSC)を移植されたラットは、認知テストで好成績を残し、認知能力の改善を証明しました。

Con:コントロール群(正常群)
IRR:放射線照射された群(幹細胞移植はしていない)
IRR+hNSC:放射線照射し、幹細胞を移植した群

2、放射線照射による唾液の分泌不全に対する幹細胞治療

頭頚部癌の患者の約70%が放射線治療を受けています。頭頚部癌の放射線治療は、唾液の分泌を低下させ、口腔内を乾燥させる病気を引き起こすことがあります。放射線治療は耳下腺と顎下腺(どちらも唾液腺であり、唾液の分泌を行う)の両方に照射した場合、唾液分泌の機能不全を起こすと言われています。この機能不全は、唾液腺への放射線照射によって、組織がダメージを受け、幹細胞が十分に機能する成熟した細胞へ分化しないことによって起こります。幹細胞治療により、唾液腺の再生能力を増加させると、唾液の分泌能力を回復させることが出来ます。
 以下、マウスに対し、唾液腺への放射線により意図的に唾液の分泌能力を低下させ、そこに幹細胞を注入し、唾液の分泌能力は改善するかを調べた研究です。

グラフは、放射線照射後60日、90日、120日の経過です。c-Kitとは幹細胞の成長因子で、遺伝子変異により癌などの腫瘍が発生する事があります。
IR:幹細胞を注入しない群
c-Kit-: c-Kit細胞陰性の幹細胞を注入した群
c-Kit+: c-Kit細胞子陽性の幹細胞を注入した群
結果として、c-Kit細胞は放射線照射による組織の損傷を改善することが分かりました。つまり、幹細胞を注入することで、放射線治療によって機能しなくなった唾液の分泌能力を再生することが出来るのです。

3、骨の放射線治療による壊死

骨への放射線照射は、骨放射線壊死、骨折不全、骨成長の深刻な変化、放射線誘発腫瘍などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。骨放射線壊死は、低酸素症を起こし、血管を新しく作れなくなり、それにより組織が壊れ、治癒しなくなることです。放射線の照射により、骨の形成を阻害します。ここに二相性リン酸カルシウムという骨形成因子を移植する事で、放射線治療により骨形成が出来なくなった組織を正常に戻します。以下、二相性リン酸カルシウムで治療された骨髄の移植片です。→は新しい骨の形成を示しています。

4、放射線誘発皮膚線維壊死を改善する幹細胞療法

軽度の発疹から重度の潰瘍に及ぶ皮膚疾患は、放射線治療の最も一般的な副作用の1つです。通常、照射後1〜4週間以内に現れます。急性反応は、放射線照射により急速に細胞の増殖がなくなることと、血管および炎症反応との組み合わせから生じます。放射線誘発性線維症および壊死は通常、治りにくい病気であると考えられ、軽度のけがの後でも再発する傾向があります。このような病気に対し、脂肪由来幹細胞(ADSC)を局所的に投与することで、幹細胞は血管の内皮細胞に分化する事が出来るので、皮膚のけがの治る過程を促し、血管を新しく作れるようにします。

臨床的には、乳房切除後疼痛症候群(PMPS)を患い、放射線療法を伴う乳房切除術を受けた患者113人に、幹細胞投与を行い平均13か月の経過を観察しました。結果、瘢痕(傷口が硬くなる事)を減らすことに成功しました。以下、メカニズムです。

5、放射線誘発肝疾患を改善する幹細胞療法

肝臓は35 Gyを超える放射線療法に耐えることが出来ません。そこで、肝臓への放射線照射は放射線誘発性肝疾患(RILD)を誘発する可能性があります。放射線誘発性肝疾患(RILD)の症状としては、疲労、急速な体重増加、肝臓の肥大、腹水、および肝ホスファターゼの急激な上昇などがあります。現在、効果的な治療法はなく、放射線の照射は肝細胞の再生を阻害します。

これは、肝臓の右半分にだけ放射線を照射し、HGFという肝細胞増殖因子を静脈内投与し16週間後に解剖したものです。照射された肝臓は、HGF投与により細胞増殖をしていることが分かります。

6、心臓への放射線照射に対する幹細胞治療

放射線の胸部照射は、心血管疾患のリスクを大幅に増加させます。ホジキンリンパ腫および小児がんの長期生存者は、総線量30–40 Gyで心臓死のリスクが2〜7倍増加します。

これは、放射線により誘発された心筋の障害と幹細胞治療の様子です。放射線の照射は微小血管を傷つけと毛細血管の喪失を引き起こし、組織への血液の流れを不十分にし、心筋梗塞を引き起こす可能性があります。注入された心筋細胞前駆細胞や胚性幹細胞は梗塞した領域に戻り、生存している細胞を刺激して、傷ついた組織を増殖および再生させます。

7、放射線誘発直腸炎を改善する幹細胞療法

世界中で、年間約500,000人の患者が腹部または骨盤の放射線療法を受けています。これらのうち、5〜10%は10年以内に骨盤放射線疾患(PRD)を発症します。幹細胞治療は、これを治療する新しい戦略です。腹部に放射線を照射されたマウスでは、幹細胞が尾静脈を介して腸粘膜に移植され、放射線照射によって誘発された潰瘍を治します。また、骨髄由来脂肪間質細胞(BMASC)の移植は、腸の成長因子の血中濃度を増加させ、腸絨毛の再生を誘発し、それによって腸の機能回復を加速させます。

抗がん剤による癌治療後の副作用に対する幹細胞治療


1.シスプラチンが誘発する性腺毒性に対する骨髄由来幹細胞の役割

https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-018-0946-6


シスプラチンは、代表的な抗がん剤です。シスプラチンが誘発する精巣への機能障害に対して、骨髄由来幹細胞を注入し、その効果を調査した論文を紹介いたします。30匹の雄のラットをコントロールグループ(シスプラチンを腹腔内に注入した後、生理食塩水を注射する)と幹細胞注入グループ(シスプラチンを腹腔内に注入した後、一日後に骨髄由来幹細胞を注射する)に分け、その効果を観察しました。
結果として、シスプラチン(抗がん剤)を注射し骨髄幹細胞を注射したグループは、コントロールグループと比較して腫瘍壊死因子TNF-αという癌をなくす物質が増加しており、その他にも癌を抑制するタンパク質が増加したりなど、抗がん剤の投与によって起こった性腺毒性を幹細胞は治すことが分かりました。

以下、実験結果を示す図です。

Normal=b1:正常なマウス
Cisplatin=b2:シスプラチン(抗がん剤)を注入したマウス
BM-MSCs=b3:シスプラチン(抗がん剤)を注入した後、骨髄幹細胞を注射したマウス

aのグラフは、精細管の径を表しており、正常なマウスと骨髄幹細胞注入マウスの径はほぼ同じであることが分かりました。
bの図は、精細管におけるセルトリ細胞(精子を形成する)の組織図です。丸く大きな円は細胞の1つを示しており、b1とb3は同じような形をし丸く大きいのに対し、b2は細胞がつぶれているのが確認出来ます。

以上の結果から、骨髄幹細胞は、抗がん剤により傷つけられたり、機能を失った細胞に対し、細胞を復活させることが出来るのが理解できます。つまり、骨髄由来幹細胞は非常に万能な細胞なのです。


2.幹細胞による、抗がん剤投与によって引き起こされた、ケモブレン(認知機能障害)の改善

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4332567/

癌に対し、抗がん剤を使って治療すると、ケモブレインという重度の認知機能障害を引き起こす可能性があります。ケモブレインは、抗がん剤の治療期間中、もしくはそのあとに、記憶力や思考力、集中力が一時的に低下する症状のことです。この症状は、生存者の75%が抗がん剤の治療をやめた後も長く続くと言われています。この論文は、長年のシクロホスファミド(抗がん剤)の投与により、ケモブレインの症状を示すラットに対し、海馬の機能(記憶を司る)を測定し、認知能力の低下を確認しました。そして、ケモブレインを示すマウスに、ヒト神経幹細胞を脳内に移植し、1ヶ月後に検査したところ、すべての認知障害が解消されていることがわかりました。つまり、幹細胞の移植により、抗がん剤で障害された細胞に、幹細胞が移植されて取って代わり、正常な細胞として定着し機能も回復させる事が分かりました。

以下、実験です。ラットを①CON:偽手術を受けたコントロールグループ②CYP:シクロホスファミド(抗がん剤)を注入したグループ③CYP+hNSC:シクロホスファミド(抗がん剤)の注入一週間後にhNSC(ヒト神経幹細胞)を移植したグループ、の3グループに分けて実験しました。この3つのグループに対し、認知能力テストを行い、認知機能を確認するテストは、NPR(場所認識テスト)と、TO(時間的順序認識テスト)、OIP(物体認識テスト)の3つを行いました。

実験は以下の通りである
B:NPR(場所認識テスト)
C:TO(時間的順序認識テスト)
D:OIP(物体認識テスト)
また、グループは以下の通りである。
①control:偽手術を受けたコントロールグループ
②CYP:シクロホスファミド(抗がん剤)を注入したグループ
③CYP+hNSC:シクロホスファミド(抗がん剤)の注入一週間後にhNSC(ヒト神経幹細胞)を移植したグループ
3つの認知能力テストの結果より、ヒト神経幹細胞移植を行ったグループは、認知能力がコントロールグループ(抗がん剤を投与していないグループ)と同じくらいに回復しているのが分かります。つまり、幹細胞の移植により、ケモブレインを起こした細胞と機能する細胞を取って代わり、正常な機能をする細胞へと回復させたのです。幹細胞はいかに万能な細胞であるか分かることでしょう。

3.抗がん剤によって誘発された末梢神経障害における幹細胞治療

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/term.2972

抗がん剤など化学療法薬は、神経系を破壊し、副作用としてCIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)を引き起こす可能性があります。末梢神経障害とは、脳や脊髄から始まり、末梢(先端部、手足など)へと伸びている神経が傷つく事です。末梢神経は感覚を伝える神経なので、患者は足のつま先や指先を針で刺されたようなチクチクとした痛みやしびれを感じ、不快を訴えます(※2)。抗がん剤など化学療法薬によって引き起こされた末梢神経障害を特に、CIPN(化学療法誘発性末梢神経障害)と呼びます(※3)。ここで期待されているのが幹細胞治療です。幹細胞は、機能しなくなった神経細胞と取って代わるだけでなく、神経細胞の炎症を押さえる役割を担います。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166432818314396

ここで、パクリタキセル(抗がん剤)の投与によりCIPNを引き起こしたラットに間葉系幹細胞を注入しその運動障害を解消する実験を行った論文を紹介いたします。ラットにパクリタキセル(抗がん剤)を複数回注入することで神経障害性疼痛を引き起こし、プレガバリン(神経疼痛阻害薬)を投与する群、その後骨髄由来幹細胞を注入する群に分けて、その後にTAC(全抗酸化能力)とNGF(神経成長因子)を測定しました。

※2
 
"What Is Peripheral Neuropathy? - American Cancer Society." 1 11月. 2019, https://www.cancer.org/treatment/treatments-and-side-effects/physical-side-effects/peripheral-neuropathy/what-is-peripherial-neuropathy.html。アクセス日: 26 9月. 2020。

※3
"末梢神経障害 マネジメントの 手引き - 一般社団法人 日本がん ...." http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/book02.pdf。アクセス日: 26 9月. 2020。

Normal:正常なラットのグループ
PTX:パクリタキセル(抗がん剤)を投与したラットのグループ
PGB:プレガバリン(神経障害に伴う疼痛阻害薬)を投与したラットのグループ
BM-MSCs:骨髄由来幹細胞を投与したラットのグループ
PGB+BM-MSCs:プレガバリン(神経障害に伴う疼痛阻害薬)を投与した後、骨髄由来幹細胞を投与したラットのグループ

TAC(total antioxidant capacity):全抗酸化能:生体中の抗酸化物質の総合的な指標
NGF(nerve growth factor):神経成長因子:神経を成長させる因子

図を見て分かるように、パクリタキセルのみを注入したグループはTAC,NGFともに著しく低い値を示していますが、プレガバリン(神経疼痛抑制剤)と骨髄由来幹細胞を併用して注入したグループは正常グループとほぼ変わらない能力を示すようになりました。プレガバリンや骨髄由来幹細胞単体で使用しているグループと比較しても、併用する事でより効果が増すことも分かりました。つまり、抗がん剤による末梢神経障害は、神経疼痛抑制剤と骨髄由来幹細胞の併用で、正常と同じように機能を回復することが可能なのです。

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