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自閉症の典型的な症状:特性と理解のための完全ガイド

[2025.05.26]

自閉症スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難さや特定のパターンへのこだわりなど、特徴的な症状を持つ発達障害です。本記事では、自閉症の典型的な症状について詳しく解説します。

本記事について
※自閉症の症状は本記事に記載されている項目が全てではありません
※子どもの発達は個人差があります
※治療や診断については医師にご相談ください

自閉症(自閉スペクトラム症)とは

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの障害と限局的反復行動を主要徴候とする神経発達症です。

DSM-5では、従来の自閉症・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害などの下位診断群を包含する概念として再定義されました。発症には多遺伝子が関与し、環境要因との複雑な相互作用が想定されています。

有病率は1%を超え、男性に多い傾向があります。症状の現れ方は連続体(スペクトラム)として存在し、知的能力も様々であり約半数は知的障害を伴います。また早期発見・早期支援は、二次障害を防止する上で重要です。

一人ひとりにあった適切な支援によって、生活の質を高めることができます。なお、親の育て方や愛情不足が原因ではなく生まれつきの脳の特性によるものと理解しておきましょう。

 

参考文献:
日本医事新報社
自閉スペクトラム症(ASD)について学ぶ

 自閉症の主な特性カテゴリー

自閉スペクトラム症(ASD)の特性は多岐にわたり、大きく分けて4つの主要なカテゴリーに分類することができます。

ここでは、それぞれの症状カテゴリーにスポットをあて解説します。特性を理解し、個別支援へ繋げましょう。

症状カテゴリー 具体的な特徴・例
社会的コミュニケーションの困難
  • 目が合いにくい
  • 相手の気持ちを読み取りにくい
  • 会話が一方通行になりやすい
こだわり・反復的行動
  • 同じ行動の繰り返し
  • 特定の物への強い執着
  • ルーティンへの固執
感覚の特異性
  • 音や光に過敏
  • 特定の食感や味への偏食
  • 痛みに鈍感または過敏
その他の特性
  • 運動の不器用さ
  • 睡眠の問題
  • 特定分野への高い集中力

参考文献:日本自閉症協会

社会的コミュニケーションの困難さ

自閉スペクトラム症の中核的特性として、社会的コミュニケーションの困難さがあります。単なる「内向的」な性格とは異なり、様々な社会的状況で一貫して見られる質的な特徴です。

具体的には、非言語的コミュニケーションの特異性として現れます。また、会話が一方的になりやすく、自分の興味ある話題では饒舌になる一方、他の話題には関心を示さないことがあります。相手の表情や言葉の調子から感情を読み取ることが難しく、同年齢との関係構築ができない点や二次的な情緒や行動の問題につながることもあるでしょう。しかし、全くコミュニケーションが取れないことではありません。

一人ひとり得意不得意があるように、自閉症のある方にも得意とするコミュニケーション手段があります。たとえば視覚優位であればPECSなど絵カードを使用し、聴覚優位であれば話しかけ方に工夫を行う支援が必要です。このように適切な支援や環境調整によって、これらのスキルの向上が期待できます。

対人関係の困難さ

対人関係においても困難さを示します。アイコンタクトの少なさは乳幼児期から見られる点も、自閉症の特徴です。

「恥ずかしがり屋」とは質的に異なり、目を合わせながら他の行動を並行して行うことの難しさに起因します。また、表情や視線から相手の気持ちを読み取ることも困難なため表情全体ではなく「涙」や「口の形」などの個別パーツに注目する傾向があります。

社会的関心の向け方の違いから、幼少期に人見知りや親の後追いをしない方もいるでしょう。これは決して、愛着形成の問題ではないため周囲の理解も必要です。また、「孤立型」「受動型」「積極奇異型」などのタイプがあり、それぞれ特徴的な関わり方をします。これらの困難さは早期からの社会的スキルトレーニングや視覚的支援によって改善する可能性があります。

 

参考文献:
日本小児神経学会「自閉症について教えてください」
文部科学省「自閉症の子供に共通する傾向」教育支援資料
神尾陽子、十一元三「自閉症における表情認知の特異性」 
厚生労働省「発達障害の理解」
北海道教育大学「自閉症者における他者のなりたち:感情的なつながりを持つことの困難」 

言語コミュニケーションの特徴

自閉スペクトラム症(ASD)の方々の言語コミュニケーションには特徴的なパターンが見られます。言葉の発達の遅れから、単に発語が遅いだけでなく名前を呼んでも反応しないなどの指示理解の困難さとして表れます。

言語獲得後も、抑揚のない「棒読み」のような話し方が特徴的で、声のトーン変化に対する脳の聴覚野反応が弱くニュアンスの識別が難しいことが要因です。また、年齢不相応な大人びた言葉遣いや形式張った表現(例:「承知しました」)を好む傾向もあり、社会的文脈から切り離して言葉を記憶・再現する特性が背景にあります。

会話では特定の興味分野に特化した一方的な話し方が目立ち、相手の反応を読み取れず話題を変えられないこともあります。これは「心の理論」の発達特性に起因し、表情や声の調子からの感情読み取り困難が影響してるといえるでしょう。

特徴は個人差が大きく、視覚支援や具体的な会話ルールの明示が効果的です。たとえば、絵カードを使った感情理解トレーニングや話し手の切り替えを促す視覚的合図などが挙げられます。早期療育を取り入れることで、将来的に二次障害の予防や自立へとつながるでしょう。

 

参考文献:
日本小児神経学会「自閉症について教えてください ①どのような症状がありますか」
金沢大学「世界初!自閉スペクトラム症の言語発達に関わる脳の特徴を可視化」 
発達障害教育推進センター「自閉症」 
発達障害教育推進センター「文章や言葉の意味理解をさせるための指導・支援」 
西村辮作「自閉症児の言語発達障害とその治療」聴能言語学研究8, 209-215(1991)
日本福祉大学「うちの子はことばが遅れている?ことばが遅れる原因と」

こだわりと反復的行動パターン

自閉スペクトラム症の特徴的な症状の一つとして、行動・興味・活動における限定された反復的な様式があげられます。こだわりや一定の行動パターンを行うことで落ち着く、反対に不安を表している点を理解することが重要です。ここでは2つの反復的行動パターンを解説します。

典型的なこだわり行動

分類 行動例 背景・意味
常同行動 手をばたつかせる、体を揺らす 不安の軽減や感覚の調整
配置へのこだわり おもちゃを並べる、色や大きさで分類 秩序を作り安心感を得る
特定対象への興味 電車や恐竜、数字などに強い興味 狭く深い知識があり、他分野には無関心なことも
順番・勝敗 「一番でなければ嫌」、ゲームで負けると落ち込む 予測外の事態への対応が難しい
ルーティン 同じ道順や食事内容へのこだわり、予定変更に強く反応 規則性が安心感につながる

上記の表は、典型的なこだわり行動でよくみられるケースを表にまとめたものです。

自閉スペクトラム症(ASD)の方には、いくつか特徴的な「こだわり行動」が見られることがあります。これらは単なる好みや性格の一部ではなく、本人にとって安心感を得たり、不安を和らげたりする大切な行動であることが多いのです。同じ動きを繰り返す「常同行動」は、心を落ち着ける方法の一つです。特に緊張したり、不安を感じたりしているときに強まる傾向があります。

また、物の配置や順番に強いこだわりを持つ行動は、環境に自分なりの秩序をつくることで安心感を得ようとしていると考えられます。特定のものへの強い関心も典型系的なこだわり行動の1つです。電車・恐竜・数字・地図など、興味を持ったものに対して驚くほど詳しくなったり、長時間それについて話したりすることがあります。一方で、それ以外のことには関心を示しにくいということもあるでしょう。

順番や勝ち負けに強くこだわる行動は、これは単に負けず嫌いというより予定や結果が思った通りでないと大きな混乱を感じるためです。そして、毎日の決まった流れを大切にする「ルーティン」へのこだわりは「いつも通り」であることが何より安心につながります。そのため、急な予定変更などには強く抵抗したり、癇癪やパニックを起こすケースがあります。

それぞれの行動には理由があり、理解することで適切な関わり方が見つかります。必要に応じて、医療機関や専門家に相談することで本人に合った支援を受けることができるでしょう。

 

参考文献:
一般社団法人発達障害支援センター「常同行動(繰り返し行動)」
子どもの心の診療ネットワーク「自閉症スペクトラム障害の子どものこだわり行動への対応」
国立精神・神経医療研究センター「自閉スペクトラム症(ASD)」 

行動パターンの特徴

特徴 行動例 背景・意味
優れた視覚記憶 一度訪れた場所の細部を正確に覚えている 見た情報を写真のように記憶する力があるため
感情と記憶の強い結びつき 楽しかった場所に喜び、不安だった場所に強く反応する 過去の体験と感情が結びつきやすい傾向がある
環境の変化への敏感さ 通い慣れた道が通れないと混乱、予定変更に強く動揺する 予測通りに進まない状況に不安を感じやすい
配置や順序への正確な記憶 物の位置が変わるとすぐに気づき、元に戻そうとする 環境の一貫性が安心感につながる
物への愛着と記憶の保持 思い出の品を手放せない、特定の持ち物を大切にし続ける 物を通じて過去の体験や感情を保とうとする傾向

自閉スペクトラム症の方には、独自の「ものの見え方・感じ方」があり、それが行動として現れることがあります。特に目立つのが、優れた記憶力、なかでも視覚的な記憶力の高さです。

たとえば、以前訪れた場所の細かい様子を正確に覚えていて、その記憶が感情と結びついている場合があります。「楽しかった場所の近くで自然と笑顔になる」「不安な経験をした場所の前で急に緊張する」といった反応は、記憶が鮮明に残っているからこそ起こるのです。

また、物の位置や並びに敏感で、ほんのわずかな変化にもすぐ気づくことがあります。これは、環境がいつも通りであることが安心感につながっているためと考えられています。

抽象的な説明よりも、実際の体験を通じて理解する力が高い傾向もあります。そのため、具体的な経験に基づいて学ぶことが得意ですが、逆に予期しない出来事や記憶と異なる状況に直面すると強い不安や混乱を招くことも。通い慣れた道が通れなかったり、使い慣れた物が急に壊れたりしたときに動揺することがあり「思い出しパニック」と呼ばれる反応につながるケースも少なくありません。

さらに、思い出のある物に強い愛着を持ち大切に保管し続ける人もいます。これは、物を通して自分の記憶や感情を保とうとする自然な表れです。自閉スペクトラム症の方にとって大きな強みとなる一方で、変化への対応に難しさを伴うこともあります。視覚的な記憶の力を活かしながら、少しずつ柔軟に対応できる力を育てていくことが支援の大切なポイントです。

 

参考文献:
日本小児神経学会「自閉症について教えてください ①どのような症状がありますか」 
科学研究費助成事業「自閉スペクトラム症における自伝的記憶の特性についての多面的検討」 
日本自閉症スペクトラム学会「不安を訴える自閉症スペクトラム児への動作法面接」
佛教大学「自閉症児の視覚的情報処理能力に視点をあてたコミュニケーション・スキルや日常生活スキルの指導に関する検討」
杉山登志郎「自閉症児のタイムスリップ現象」発達障害研究 

感覚の特異性

自閉スペクトラム症の方々には、感覚情報の処理における特異性がしばしば見られます。これは単なる好き嫌いとは質的に異なり、特定の感覚刺激に対して極端な過敏さや逆に鈍感さとして現れます。

DSM-5の診断基準にも含まれるこの特性は、光や音、触感、匂いなどの環境刺激に対して並外れた反応や興味を示すことがあります。感覚特性は脳の情報処理メカニズムと関連しており、日常生活や学習、社会参加に大きな影響を与えることがあります。

適切な環境調整と支援によって、これらの感覚特性による困難を軽減することが可能です。

感覚過敏と感覚鈍麻

感覚の種類 過敏の例 鈍麻の例
触覚 散髪やシャンプーを嫌がる 痛みに気づきにくい
聴覚 大きな音に強い不快感を示す 音に反応しにくい
視覚 強い光や動きに敏感 視覚刺激に反応しにくい
味覚・嗅覚 偏食、特定の味やにおいを嫌う 味やにおいに無頓着
温度感覚 寒暖差に敏感 暑さ寒さに気づかない

感覚に対する感じ方が、一般的な感覚と異なる点も特徴です。これは「感覚過敏」や「感覚鈍麻」と呼ばれ、日常生活にさまざまな影響を及ぼすことがあります。感覚特性は個人差が大きく、同じ刺激でも人によって感じ方が異なります。感覚過敏や感覚鈍麻は、本人の努力や我慢の問題ではなく神経の特性によるものです。そのため、周囲の理解と配慮が重要です。

感覚の特性を理解し、適切な環境調整や支援を行うことで、日常生活の困難を軽減することが可能です。たとえば、静かな環境を整える、刺激の少ない衣服を選ぶ、明るさを調整するなどの工夫が有効です。

【感覚過敏

特定の感覚刺激に対して非常に敏感に反応し、不快感やストレスを感じる状態です。

【感覚鈍麻

特定の感覚刺激に対して反応が鈍く、刺激を感じにくい状態です。

 

参考文献:
国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害者の感覚の問題」
Kaien「感覚過敏・鈍麻とは?原因や症状ごとの対処法、発達障害との関連性を解説」

感覚に関連する行動特性

感覚処理の特性 行動への影響例
感覚刺激の予測困難 突然の音や光に過剰に反応する
感覚統合の難しさ 複数の感覚刺激が同時にあると混乱する
感覚刺激への過度な集中 特定の感覚刺激に強く引き込まれる

ASDの方々は、感覚刺激を受け取る際に、過去の経験や文脈を活用して予測することが難しい場合があります。その結果、予期しない刺激に対して過剰に反応したり、逆に反応が鈍くなったりすることがあります。このような感覚処理の特性は、以下のような行動として現れることがあります。

感覚処理の特性に配慮した環境調整や支援は、ASDの方々が安心して生活するために有効です。たとえば、感覚刺激を予測しやすいようにスケジュールを視覚化する、感覚刺激を調整できる環境を整えるなどの工夫が考えられます。

参考文献:
 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
自閉スペクトラム症の感覚の特徴 精神神経学雑誌
自閉症のこだわりの強さと感覚症状に共通の神経基盤 理化学研究所

自閉症の多様性とスペクトラム

ここでは、主なタイプの違いや、よく併せて見られる他の状態・障害について解説し自閉症の全体像をわかりやすくご紹介します。ひとことで「自閉症」といっても、特性の現れ方は多様な特徴があります。多様性を理解することで「自閉症だから〇〇」といった考えをなくし、個人にあった支援を進めていくきましょう。

自閉症のタイプ

タイプ名 特徴
積極奇異型 一方的に自分のルールで関わるが積極的
受動型 おとなしく流されやすい、気づかれにくい
孤立型 他者との交流を避け自分の世界に閉じこもる
尊大型 自分の考えや価値観を強く主張することがある
大仰型 感情表現が大きく、オーバーリアクションしやすい

自閉スペクトラム症(ASD)の特性は人によって大きく異なり、社会的な関わり方の違いからいくつかのタイプに分類されることがあります。これらの分類は診断基準ではなく、個々の特性を理解し支援に活かすための参考概念です。

代表的なタイプには、自ら関わろうとするものの独特な距離感をもつ「積極奇異型」、自発的な関わりは少ないが受け身で応じる「受動型」、交流を避けがちな「孤立型」があります。さらに、自分の価値観を強く主張する「尊大型」や、感情表現が過剰になりやすい「大仰型」なども報告されています。

なお、タイプの特徴は混在することもあり、発達や環境によって変化するため、固定的にとらえないことが大切です。

 

参考文献:
日本発達障害ネットワーク「自閉スペクトラム症の社会性のタイプ分類」
国立精神・神経医療研究センター「自閉スペクトラム症の多様性」
日本自閉症スペクトラム学会「自閉症スペクトラムにおける社会的相互作用の多様性」 

併存しやすい状態・障害

併存しやすい状態・障害 特徴
注意欠如・多動症(ADHD) 不注意、衝動性、多動性が特徴で、ASDと併存することで行動上の困難が増すことがあります。
限局性学習症(SLD) 読み書きや計算など特定の学習領域に困難を示し、ASDと併存することで学習面での支援が必要となります。
不安症・うつ病などの二次障害 ASDの特性による社会的な困難や挫折から、二次的に不安や抑うつなどの精神症状が現れることがあります。
てんかん ASDの方はてんかんを併発するリスクが高く、特に知的障害を伴う場合や言語発達に遅れがある場合に注意が必要です。

自閉スペクトラム症(ASD)には、注意欠如多動症(ADHD)・限局性学習症(SLD)・不安症やうつ病などの二次障害・てんかんなどが併存することがあります。ADHDの多動性や衝動性が加わることで行動上の困難が増し、SLDでは学習面での支援が必要です。

また不安や抑うつは、失敗体験や否定的な自己評価から生じやすく心身の不調や不登校などにもつながる可能性があります。特にてんかんは知的障害を伴うASDに多く、早期の診断と適切な対応が求められます。これらを踏まえ、個別の状態に応じた支援と環境調整が不可欠です。

 

参考文献:
日本小児神経学会「ADHDの併存症―限局性学習症―」
堺市「けいれん発作とてんかんについて」
科学研究費助成事業「自閉スペクトラム症に併存する限局性学習症の病態解明とその支援」
愛知県医師会「自閉スペクトラム症およびその併存症である発達性障害について」
武田薬品工業「併発する神経発達症群|知って向き合うADHD」 

年齢による症状の変化

自閉スペクトラム症(ASD)の特性は、成長とともに現れ方が変化します。年齢や環境によって困りごとの内容が変わるため、その時々の発達段階に応じた理解と支援が重要です。

年齢層 主な特徴例
幼児期
  • 言葉の遅れ
  • 指さしや模倣が少ない
  • 一人遊びを好む
学童期
  • 友人関係の構築が難しい
  • 学習面で得意不得意の差が大きい
思春期以降
  • 社会的状況の理解が困難
  • ストレスによる二次障害リスク
  • 変化への適応の難しさ

幼児期の特徴的な症状

特徴カテゴリ 具体的な行動例
言語発達の遅れ 単語の出現が遅い、オウム返し(エコラリア)、独特な言い回しなど
社会的コミュニケーション 指さしや共同注意の不足、模倣行動の少なさ、名前を呼んでも反応しないなど
遊びの特徴 一人遊びを好む、特定の物への過度な興味、並べる・回すなどの限定的な遊び方
行動のこだわり ルーティンへの固執、環境の変化への強い抵抗、特定の順序や配置へのこだわり

自閉スペクトラム症(ASD)は、乳幼児期に初めて気づかれることが多い発達特性といえます。早期発見と適切な支援につなげるためには、幼児期に見られる特徴を理解することがとても大切です。

言葉の発達の遅れに気づいたり、検診で指摘されたりすることがきっかけとなることも少なくありません。「1歳を過ぎても単語が出ない」「2歳を過ぎても二語文が出ない」など、周囲の子どもと比べて言葉の進みが遅いことに気づく保護者が多くいます。

また、言葉を話し始めても、相手の言葉をそのまま繰り返す「オウム返し(エコラリア)」や、独特な言い回しが見られることがあります。こうした言語の特性は、定型発達とは異なる情報処理のあり方が関係しているとされ、近年の研究でもその多様性が注目されています。社会的な関わりとして、興味のあるものを指さして見せたり大人の指さしに注目したりといった「共同注意」が少なく模倣行動が乏しい傾向が見られます。

さらに、名前を呼ばれても反応しない、目を合わせにくいといった行動も周囲との関係づくりの難しさを示している場合があります。聴覚の問題ではなく、社会的刺激への関心の向け方に独自の傾向があるためです。

遊び方では、他の子どもと関わって遊ぶよりも一人遊びを好む傾向があり、また、おもちゃの「特定の部位(タイヤなど)に強くこだわって遊ぶ」「並べたり回したりする動作を繰り返す」など、限られた方法で遊ぶ様子が見られることがあります。さらに、こだわり行動やルーティンへの固執も幼児期から見られることがあります。

たとえば、「服の着る順番が決まっている」「食事の内容や並びが変わると不安になる」など、環境の変化に強い抵抗を示すこともあるでしょう。これらは「わがまま」ではなく、予測可能な状況が心の安定につながるという特性によるものです。

特徴はすべての子どもに当てはまるわけではなく、程度もさまざまです。早期の気づきと評価が、その後の支援をより効果的にする大きな一歩となります。少しでも気になることがあれば、専門機関に相談することをおすすめします。

 

参考文献:
国立精神・神経医療研究センター「自閉スペクトラム症(ASD)」
日本小児神経学会「自閉症について教えてください」
菊知 充, 廣澤 徹, 吉村 優子. 幼児期の自閉スペクトラム障害の脳機能の特徴. 臨床神経生理学, 2025;53(1):60–65.

学童期・思春期以降の特徴

特徴 説明
社会的状況の理解の困難さ 暗黙のルールや場の空気を読み取ることが難しく、集団生活での適応に苦労することがあります。
友人関係構築の難しさ 雑談や非言語的なコミュニケーションが苦手で、友人関係を築くことが難しい場合があります。
学習面での得意不得意の差 特定の分野に強い興味や能力を示す一方で、他の分野では著しい困難を感じることがあります。
ストレスによる二次障害のリスク 環境とのミスマッチにより、慢性的なストレスを抱え、不安症や抑うつなどの二次障害を併発するリスクが高まります。
変化への適応の難しさ 学年の進行や進学などの環境変化に対して、強いストレスを感じることがあります。

学童期から思春期にかけて、新たな形で表れるケースもあります。この時期は学校や人間関係など社会的な要求が高まるため、それまで目立たなかった困難が表面化しやすいです。特に、場の空気や暗黙のルールを理解することが難しく、集団生活にうまくなじめないことがあります。

たとえば、授業中の発言タイミングや友人同士の微妙なやりとりを読み取ることに苦労する場面が増えます。皮肉や冗談などの言語的なニュアンスを、正確に捉えるのも容易ではありません。人間関係では、「雑談が続きにくい」「自分の話を一方的にしてしまう」といったやりとりの難しさから孤立しやすくなります。グループの中での立ち位置がつかめず、孤独感を深めてしまうケースも。

また学習面では、特定の教科に優れた能力を示す一方で他の分野では極端に苦手な特徴が目立つようになります。このような「凸凹」のある学びの特性は、周囲から誤解されやすく「やればできるのに」と見なされてしまうこともあるため、適切な理解が欠かせません。

学童期・思春期以降は、特性と環境のミスマッチによるストレスも大きく不安や抑うつなどの二次障害を引き起こすリスクが高まります。「学校に行きづらくなる」「不登校になる」などに移行する前に、カウンセリングなど適切な期間とのつながりを持つことがポイントです。進級や進学といった環境の変化に適応するのが難しく、急な予定変更などに強い不安に対しては本人にとって見通しの持てる支援が安心して生活するための鍵です。

 

参考文献:
栃木県「学童期の発達障害」 
子どもの心の診療ネットワーク「発達障害におけるADHD、ASD、LDの診断基準、年齢別の症状と対応」
日本小児神経学会「自閉症について教えてください」
国立精神・神経医療研究センター「自閉スペクトラム症(ASD)」
日本小児精神神経学会「思春期・青年期の自閉スペクトラム症」
西村智恵子・高野久美子(2017)「学童期自閉症スペクトラム児の母親における困難への対処に伴う体験のプロセス」『人間福祉学会誌』19(2), 17-26.
岡田珠江(2020)「発達障害のある学生への支援の動向」『湘南工科大学紀要』54, 115-127.

 診断と支援

ここでは、診断に用いられる主な方法や、発達の段階に応じた支援の考え方について紹介します。自閉スペクトラム症(ASD)の診断と支援には、専門的な知識と多面的な評価が求められます。早期発見・早期対応の重要性について理解しましょう。

診断基準と方法

ASDの診断には、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版(DSM-5-TR)」の診断基準が広く用いられています。この基準では、以下の2つの中核症状が挙げられています。

中核症状のカテゴリ 具体的な特徴(評価項目)
社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
  • 社会的・情緒的な相互関係の障害
  • 非言語的コミュニケーション行動の欠陥
  • 対人関係の発展・維持の困難
行動、興味、または活動の限定された反復的な様式
  • 常同的または反復的な運動、物の使用、または会話
  • 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり
  • 限定された強い興味
  • 感覚過敏または感覚鈍麻

診断プロセスでは、専門医による詳細な発達歴の聴取が重要です。特に幼少期からの発達の様子は診断において非常に重要な情報となります。また、行動観察も診断の重要な要素であり、ADOS-2(自閉症診断観察検査第2版)などの標準化された観察法を用いることで、より客観的な評価が可能になります。

心理検査も診断の補助として用いられます。AQ(自閉症スペクトラム指数)などのスクリーニング検査は、自閉症傾向の強さを数値化するのに役立ちます。また、WISC-Ⅳなどの知能検査を実施することで、認知特性のプロファイルを把握し、知的能力と自閉症特性の関係を評価することができます。

診断においては、他の疾患や障害との鑑別も重要です。たとえば、以下の疾患や障害はASDと似た症状を呈することがあります。

  • 社会不安障害
  • 統合失調症
  • 強迫性障害
  • 言語発達障害など

また、ADHDや限局性学習症(SLD)などの発達障害がASDと併存することも多いため、それらの特性についても評価が必要です。さらに、レット症候群や脆弱X症候群などの遺伝学的疾患の一部としてASDの特性が現れることもあり必要に応じて遺伝学的検査や神経学的評価も検討します。

多角的な評価を通じて収集された情報を総合的に判断し、専門医が最終的な診断をします。診断は単なるラベル付けではなく、その人の特性を理解し適切な支援につなげるための出発点です。そのため、診断後のフォローアップや支援計画の策定も診断プロセスの重要な一部といえるでしょう。

 

参考文献:
日本精神神経学会「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」
神戸・西宮「DSM-5における自閉スペクトラム障害の診断基準」
小児心身医学会「自閉症スペクトラム症」 

支援アプローチ

自閉スペクトラム症(ASD)のあるお子さんや大人の方への支援には、その方の特性や年齢に合わせた様々な方法があります。ここでは、日常生活をより快適に過ごすための主な支援方法を紹介します。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、人との関わり方やコミュニケーションの方法を学ぶための練習です。たとえば、以下のようなことを練習します:

  • 挨拶の仕方や会話の始め方
  • 友達との遊び方や順番の待ち方
  • 相手の表情から気持ちを読み取る方法
  • 自分の気持ちを適切に伝える方法

練習方法としては、ロールプレイ(役割演技)や実際の場面を想定した練習、表情カードを使った学習などがあります。たとえば、「友達が悲しそうな顔をしているときは、どんな言葉をかけたらいいかな?」といった具体的な状況について考え、練習します。

分かりやすい環境づくり

自閉症のある方は、「いつ」「どこで」「何を」するのかが明確になっていると安心して過ごせることが多いです。そのための工夫として以下のようなものがあります。

環境づくりの工夫 内容 効果
場所の区分け 勉強する場所、遊ぶ場所などを明確に分ける 「ここでは何をするか」が分かりやすくなる
予定表の活用 一日の予定を絵や写真で示す 見通しが立ち、不安が減る
手順表の作成 活動の順番を分かりやすく示す 自分で活動を進められるようになる
決まった日課 毎日同じ流れで生活する 安心感が増し、新しいことに挑戦しやすくなる

これらの工夫により、「次は何が起こるのか」が分かるようになり、不安が減って落ち着いて過ごせるようになります。

視覚的な手がかりの活用

自閉症のある方の多くは、「見て理解する」ことが得意です。そのため、言葉だけでなく以下のように絵や写真・文字などを使って情報を伝えると理解しやすくなります。

  • 朝の準備の手順を絵で示した「朝の準備カード」
  • 約束やルールを絵と短い文で説明した「ソーシャルストーリー」
  • 今日の予定を写真で示した「スケジュールボード」
  • 感情を表す表情の絵カード

これらの視覚的な手がかりがあると、「言われたことを忘れてしまう」「言葉だけでは理解しにくい」といった困難さを補うことができます。

感覚の特性への配慮

自閉症のある方は、音や光、触感などに敏感だったり、逆に鈍感だったりすることがあります。その方の感覚の特性に合わせた環境づくりが大切です。

感覚の種類 配慮の例
視覚(見ること)
  • 明るすぎる光を和らげる
  • ごちゃごちゃした視覚情報を減らす
  • 必要に応じてサングラスを使う
聴覚(聞くこと)
  • 騒がしい場所ではイヤーマフを使う
  • 静かな場所を用意する
  • 突然の大きな音を避ける
触覚(触ること)
  • 着心地のよい服を選ぶ
  • 服のタグを切るなどの工夫をする
  • 触れる前に声をかける
嗅覚(匂い)
  • 強い香りのものを避ける
  • 食べ物の匂いに配慮する
  • こまめに換気する

感覚の特性は人それぞれ異なるので、「これが苦手」「これが好き」という個人の特性を理解し、無理に慣れさせようとせず、その特性に合った環境を整えることが大切です。

家族の支援と環境調整

自閉症のあるお子さんを支えるには、家族全体への支援も重要です。

  • 自閉症についての正しい知識を学ぶ機会
  • 子どもへの関わり方を学ぶ「ペアレントトレーニング」
  • 家族の心理的な負担を軽減するためのカウンセリング
  • 利用できる福祉サービスなどの情報提供
  • 家庭での過ごし方の工夫についてのアドバイス

 

家族が子どもの特性を理解し、適切な関わり方を知ることで、日常生活がスムーズになります。また、家族自身が疲れすぎないよう、休息の時間を取ることや、サポートを求めることも大切です。

これらの支援方法は、その方の特性や年齢、状況に合わせて組み合わせて使うことが効果的です。一人ひとりに合った支援を見つけるために、専門家と相談しながら進めていくことをおすすめします。

 

参考文献:
日本自閉症協会「自閉症の人たちへの支援」 

自閉症の幹細胞治療について

自閉スペクトラム症(ASD)の新たな治療法として、幹細胞を使った治療が注目されています。特に、骨髄やへその緒(臍帯血)から採取される「間葉系幹細胞(MSC)」という細胞を点滴で体に入れる方法が研究されています。

幹細胞は体の中でさまざまな修復を助ける働きを持っており、ASDの人では、社会性や言葉の力、落ち着きなどに良い影響が出たという報告もあります。2022年の研究では、幹細胞治療によって行動の改善が数字としても確認されました。

これまでの臨床研究では重い副作用は報告されておらず、安全性は高いとされています。ただし、治療効果の続き方や長期的な安全性については、まだ研究段階です。日本でも大阪公立大学などで臨床研究が進められており、今後の可能性が期待されています。

【幹細胞治療とは】
再生医療の一種です。
ヒト幹細胞を利用し、損傷した神経や臓器・血管などの修復を行います。

 

参考文献:
自閉症、発達障害の最新治療、間葉系骨髄(臍帯血)血幹細胞移植治療
自閉症に対する幹細胞治療の系統的考察
自閉症、発達障害の最新治療 - 日本東京幹細胞移植治療研究所
知的障害に対する骨髄全幹細胞、最新治療
自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血有核細胞を用いた治療法の開発(大阪公立大学)

まとめ

自閉スペクトラム症(ASD)は、「社会的コミュニケーションの困難さ」「こだわり」「反復的行動パターン」「感覚の特異性」などを特徴とする発達障害です。その症状は連続体(スペクトラム)として存在し、現れ方や程度は一人ひとり異なります。

また年齢とともに症状の表れ方も変化し、環境との相互作用によって困難さの程度も変わります。早期発見と適切な支援により、二次障害の予防や生活の質の向上が可能です。

支援においては、視覚支援や構造化された環境の提供など個々の特性に合わせたアプローチが効果的といえます。自閉症の特性を単なる「障害」としてではなく時に強みや個性として活かせる可能性を秘めたものとして捉えることです。社会全体が多様性を理解し、互いに支え合う環境づくりが自閉症のある方々の豊かな人生につながるでしょう。

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